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TEACHER INTRODUCTION
内田 健一先生KEN-ICHI UCHIDA
【現在の所属】
国立研究開発法人物質・材料研究機構 磁性・スピントロニクス材料研究拠点
スピンエネルギーグループ  グループリーダー
【受賞当時の所属】
東北大学 金属材料研究所 准教授
大学4年時にスピンゼーベック効果を発見。スピンゼーベック効果は、熱から電流を作るゼーベック効果のスピン版。複雑な仕掛けが不要であり、絶縁体の磁石に温度差をつけるとスピン流が発生する現象です。スピンゼーベック素子の出力は素子の面積に比例して高出力を得られ、薄く構造がシンプルのため電子デバイスやパソコンなどの筐体に塗るだけで発電が可能になる可能性があると考えられています。講演時には、最先端の研究とともに、諦めずにチャレンジすることの大切さや本当にやりたいことを仕事にする楽しさについてもお話しいただきました。

研究の進歩 ─ Progress in research ─
2020.1.10
  東北大学金属材料研究所に准教授として勤務していた2014年に永瀬賞を拝受致しました。受賞の2年後にあたる2016年10月に茨城県つくば市にある物質・材料研究機構に移籍し、幸いなことに独立研究グループを主宰する機会をいただき、現在に至っています。
永瀬賞の受賞テーマは、熱流から磁気の流れ(スピン流)を生成する物理現象「スピンゼーベック効果」の発見と、この現象を利用した新しい熱電発電技術の開拓に関するものでした。スピンに関わる物理と熱エネルギー工学の融合研究はスピンカロリトロニクスと呼ばれており、私たちが2008年にスピンゼーベック効果を発見して以降、スピンカロリトロニクスは世界中で研究される学際領域へと成長してきました。
  物質・材料研究機構に移籍してからも広い意味ではスピンカロリトロニクスに関する研究を継続しており、現在は<磁性材料やスピンの性質を利用して熱エネルギーを制御する>ことを目指しています。研究が大きく進展する契機となったのは、主に半導体産業界において集積デバイスの故障・欠陥解析に用いられていた動的サーモグラフィ技術の有用性に着目し、スピンカロリトロニクスの研究にいち早く取り入れたことでした。動的サーモグラフィ技術でスピンカロリトロニクス現象を計測するために独自に構築した実験・解析ノウハウにより、2016年にはスピンゼーベック効果の相反現象であるスピンペルチェ効果(スピン流による熱流生成現象)の熱イメージング計測を実現しました。スピンペルチェ効果に関する研究で培った熱計測技術により、2018年には磁性体中で電流を曲げるだけで加熱や冷却ができる「異方性磁気ペルチェ効果」を直接観測することに世界で初めて成功しました。最も基本的な熱電変換現象の一つであるペルチェ効果によって加熱・冷却するためには2つの異なる物質を接合した構造が用いられてきましたが、本研究によって接合のない単一の物質において、その磁気的な性質のみによって熱制御できる新しい機能が実証されました(図)。
  スピンゼーベック効果や異方性磁気ペルチェ効果は21世紀になってようやく観測された物理現象ですが、それは人類がこれらの現象を測定する手段を今まで持ち合わせていなかったためであり、元々存在していたものです。このように、未開拓の物理や新現象は身の回りの物質や材料の中にもまだまだ眠っています。スピンがもたらす新しい熱エネルギー制御原理の応用展開を目指し、日々物理・材料研究を進めています。

ペルチェ効果(a)と異方性磁気ペルチェ効果(b)の模式図。
異方性磁気ペルチェ効果を用いることで、物質界面が無くても電子冷却することが可能になる。参照:K. Uchida et al., “Observation of anisotropic magneto-Peltier effect in nickel”, Nature 558, 95-99 (2018).

図.ペルチェ効果(a)と異方性磁気ペルチェ効果(b)の模式図