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TEACHER INTRODUCTION
中村 龍平先生RYUHEI NAKAMURA
【現在の所属】
理化学研究所 環境資源科学研究センター チームリーダー
東京工業大学 地球生命研究所 教授(本務先)
【受賞当時の所属】
東京大学大学院工学研究科 助教
1976年北海道生まれ。2000年東京理科大学卒業、2002年北海道大学修士課程修了、2005年大阪大学博士後期課程修了。Lawrence Berkeley National Laboratory 博士研究員、東京大学大学院工学系研究科助教を経て、現在は東京工業大学地球生命研究所教授。理化学研究所環境資源科学研究センターチームリーダを兼務。

研究の進歩と新たな挑戦 —Progress in research and New challenges—
2020.10.12
    永瀬特別賞をいただいたのは、東日本大震災があった2011年でした。その当時は、自分がこれまで行ってきた研究が、災害に対して無力であることを痛感し、とても落ち込んでいる時期でした。その様な中、宮田先生より永瀬賞の他に特別賞を設け、中村さんが第一回の受賞者に決まりましたとの連絡をいただきました。その時は、本当にうれしかったと同時に、私の研究が受賞に値するか悩んだことをよく覚えております。10年近く経ち改めて考えてみますと、永瀬特別賞は、私に大きな自信を与えてくださったと感じています。皆さまには改めて感謝申し上げます。
    受賞対象となった研究成果は、「深海底における巨大電池の発見」になります。この研究は、私が東京大学で助教を務めているときに、サブテーマとして進めていたものでした。当時は、とにかく、だれも知らないことをやりたい!との思いから、図書館にこもり、ひたすら論文を読んでいました。その時、目に飛び込んできたのが、深海熱水噴出孔(Black Smoker Chimney:写真)でした。その論文には、高さ50mにも達する煙突状の構造物から、高温の黒煙が放出される写真が掲載されていました。私には、この熱水噴出孔が燃料電池に見え、その仮説を検証するために、海底から採取した岩石を用い、実験室で発電することを実証しました。そしてこの発見をもとに、マントルをエネルギー源とした深海巨大電池の存在を提唱しました。
    その後、理化学研究所ならびに東京工業大学で研究室を主宰する機会を得、仮説の証明に向けた研究を開始しました。2013年と2015年には、沖縄の海底1000mにて実験を行い、天然のBlack Smoker Chimneyが発電所として働き、化学エネルギーと熱エネルギーを使いながら発電していることを証明しました。そして、熱水噴出孔の周りには、電気を食べて生きる微生物がいることも明らかになりつつあります。これは、地球上には、光合成生物と化学合成生物に次ぐ、第3の合成生物(電気合成生物)が存在することを意味します。また、深海底における発電現象は、40億年以上も前から続いている地球の営みであり、原始生命の誕生を後押しした可能性まで浮上してきました。実際に、太古の熱水噴出孔を実験室で再現することで、生命を維持するのに必要な有機分子が二酸化炭素から創り出されることを明らかにしました。生命起源の研究には、とても長い歴史があります。現在では、大気中の放電によりアミノ酸などが生成したとする学説(ユリ―・ミラー実験)が、広く受け入れられています。ですが、今後、実験結果を積み重ねていくことで、深海発電現象が生命誕生の新たな学説として注目される時が必ず来ると考えています。
    以上の様に、サブテーマとしてはじめ、頭の中で妄想していたことが、少しずつですが科学の研究課題になりつつあります。その背景には、生命と自然の美しさを知りたいとい欲求があります。また、物理化学、微生物学、地球科学など異分野の研究者との日々のディスカッションが土台となっています。これからも、科学を楽しみながら、知のフロンティアに挑み続けたいと思います。